Mashups今昔
「マッシュアップ」という言葉が最初に使われたのはポップミュージックの世界である。アーティストやDJが2つの曲を合わせて、ひとつの曲を作ることをマッシュアップという。テクノロジーの世界では、複数の情報源から提供されるコンテンツを組み合わせて、ひとつのサービスを提供すること、そのサービスを利用できるウェブサイトまたはアプリケーションを指す。さまざまな分野から登場しているが、GoogleやAmazonが多様なデータを比較的簡単にオンライン地図と統合できるツールを提供したために、とくにデジタル地図の分野で未曾有の盛り上がりを見せている。
言葉はどうあれ、マッシュアップでいわれていることは既存の複数のアプリケーションを組み合わせて新たな価値と可用性をもったアプリケーションを生み出すことであり、インターネットやウェブが登場する以前からあった。ERPの世界でもCAD/CAMの世界でも、それがパッケージとして生まれ高付加価値の商品として成長する過程で、既存の革新的な技術や製品を飲み込み、統合されていった。ソフト事業開発や商品開発に携わった人たちは「マッシュアップ」の意味とその重要性にすぐ気づくはずである。
パッケージの時代とWebサービス(新語ではSaaS)の時代の違いは、現実世界(こちら側)にあるパッケージ(開発者、販売者、ソースコド、設計ドキュメント、利用マニュアルなど)を咀嚼し改造して組み入れることと、すでにインターネットやWebで利用できる仮想世界(あちら側)にすでにあるサービスを(APIを利用して)活用することの違いである。さらに決定的に異なるのは後者の方ではアプリケーションの機能がリアルタイムに進化していくことであろう。後者の方が格段に早く簡単に、また多様なアプリケーションを生み出すことができるのは明らかである。ロートルの開発者にとっては夢の世界が現実となっている。Javaもひとつの夢の世界であったが、mashupはそれを超えた利用者の世界で実現しつある。
その昔、CADの開発でCPUとグラフィックディスプレイノ間のスピードを上げるためにハードウェア(77Kbpsの光ファイバー接続)を開発しなければならなかったことを思うと夢の世界が実現している。当時のアプリケーション開発者たちがハードやOS分野の開発まで担当しなければならなかったのが、いまやその多くが半導体に組み込まれている。
とすると、いまのアプリケーション開発者たちが注力すべきことは過去の開発者たちとはまったく異なる分野であることは自明の理である。いま求められる大切なことは、技術そのものより、「どんな技術が今後の革新を生むか」を見極め、「その技術を製品(サービス)開発に迅速に組み入れる」能力であろう。Serendipity(目利き能力)が事業の成否を決めるといっても良い。
これを養うためには世界の英知が集まる開発技術者集団やそうした頭脳が集まる集積地域に住み日常生活のなかで交友関係を深め刺激を受け合うことに勝るものはない。