ワコールの創業者塚本幸一さんの経営理念とリーダーシップを如実に語るエピソードが、「昭和の名経営者列伝」(日経ベンチャー2004-11-15) に掲載されている。
「労働組合の正式な要求はすべて無条件で通す」……。
労使交渉の席上、全社員を信頼しきるという姿勢を宣言し、労働組合の要求の中身を見ることなく、その場で判を押したというエピソードである。その結果、恐ろしいとしか言いようのない変化が社内に起こったという。その時の言葉が残っている。
社員は、私用など全くなくなり、トイレに行く時でも走っていきます。経費はダァーっと落ちるし、能率はグワァーっと上がってきます。チームの総合力は素晴らしい人間関係の上に成立することを、身をもって痛感しました。以来、「相互信頼」こそが経営の根幹だと信じるようになったのです。人が人を変えられると思ったら大きな過ちを犯します。人は誰かに感化されて大きく変わることはあるでしょう。でも、それはその人自身の意思で変わったんです。相手を服従させるんじゃなく、お互いの意思でやっているという関係を築くことが一番素晴らしい。