サッカーの基本精神に学ぶ
ヒトラー政権下でのベルリンオリンピック大会。。日本は世界における存在感を高めるために、早稲田大学のサッカーチームを参加させることを決定した。当時、世界はおろか日本国内においてさえ対校試合をする機会さえなかった無名のチームが、忍び寄る軍国主義国家の威信を背負って世界の舞台で戦うことになった。選手のひとり、堀江はロンドンで発行されたガイドブックを読み、みんなで研究しながら対策を練った。しかし、素人ともいえるチームに勝つための妙案があるわけではなかった。初戦でぶつかるスウェーデンチームは優勝候補の強豪である。平均身長185cmの選手たちに、小柄な日本人選手がどう立ち向かえばよいのか。ただ、切れのいい小回りを駆使したショートパス戦法で対抗するしかないと思い定め、その練習にあけくれる。
大会開催の2週間前、ベルリンに入った日本サッカーチームは町のチームに練習試合を申し込む。このチームは、オリンピック出場チームのどこと試合をしても負けるような平凡なチームである。そのチームにまったく歯が立たず一点も取れずに完敗した。全員自信喪失し、途方にくれる。このとき、堀江が訳したサッカーの精神についての教えがよみがえる。
サッカーの基本精神
no player should surrender until the final result.
勝つ見込みがなくても、最後まで決してあきらめてはならない
The pleasure is in the struggle, not in the result.
結果ではなく、勝とうとする葛藤の中にこそ、喜びは生まれる
find out what is wrong, and practise with the ball untill you have mastered
満足のいかない結果となっても何が間違っていたのかを探し出し、克服しなければならない。
your confidence, you will also inspire your comrades
もしチームの一人が自信を得ることができれば、その自信は仲間にも伝わっていく
そして大会当日がやってきた。前半戦、体格と技術と経験に勝るスウェーデンにまったく歯がたたない。必死に練習したショートパス戦法の体制に入る機会さえ与えられず防戦に終始し、2点を先取される。そこでまた思い出し勇気付けられたのが、「サッカー精神」である。「最後まで決してあきらめてはならない……。勝とうとする葛藤の中にこそ喜びがある……。後半戦開始後4分、エースストライカーの川本がゴールを決める。観客席は意外な展開にどよめき、そこから日本チームへの応援の声が高まる。そして、右近が2点目をゴールし、試合終了前に逆転のゴールを松永が決める。奇跡の逆転である。観客は、日本チームのこの快挙に興奮しスタンドにつめかける。実況放送をしていたスウェーデンのラジオ局アナウンサーも日本チームをほめたたえる。地元ベルリンだけでなく、ロンドンでパリでローマで新聞・ラジオが、この奇跡の逆転劇をビッグニュースとして報じた。まったく無名の弱小チームが、優勝候補のスウェーデンを下したのである。じつに劇的な展開であった。水泳の前畑選手の金メダル獲得とともに、日本はその存在感を世界に示したのであった。
ベルリン大会の翌年、日本は日中戦争に突入し、太平洋戦争という歴史的大敗北への道を歩みだした。ベルリン大会サッカーチームのメンバーたちも戦争の荒波をかぶり、逆転のゴールを決めた右近、松永両選手ともに戦死するという悲劇も経験しなければならなかった。残されたベルリンサッカーチームの川本や堀江たちは後進の指導にあたり、後輩たちにつぎの言葉を残した。
何事にもアグレッシブであれ、絶え間なき斬新。
強くなろうとすることは、常に苦しいことです。
しかし苦しさに耐え、一歩一歩、この道を踏みしめていく
その過程こそが喜びに変わっていくのです。