ペイオフ解禁
~求められるリスク管理と、ガラス細工の日本経済~
国内の超低金利やペイオフ解禁などの状況下において、個人にとっても
資産の置きどころは今までに増して重要課題となってきた。預金や外債
など選択肢も複数存在している。
株式投資もそのひとつだが、今の日本の株式市場は企業業績に比例せず
もみ合い状態が続く。その背景には、日本経済が抱えた抜本的な矛盾が
横たわっている。
●リスクの高さが気になる日本の個人金融資産動向●
この4月、日本はペイオフ解禁という新たなフェイズに入りました。もと
もと凍結されていたペイオフが全面解禁となったということは、金融行
政が「危機」の状態から「平時」になったとみなされたことを意味しま
す。
とはいえ、「危機」状態に払ったツケはことのほか大きいといえます。
いわゆる金融不安時に費やされた預金保険や国費は総額25兆円。うち10
兆4千億円が税金で穴埋めされ、国民負担となりました。これとは別に大
手行や地銀に総額12兆4千億円が資金注入され、3月末までに3兆4千億円
が返済されたものの、いまだ9兆円の公的資金が未返済で銀行に残ったま
まです。
公的資金、すなわち私たちの税金が銀行経営を支えている現状といえま
す。「平時」になったからといって、こうしたツケの存在をも過去のも
のとして忘れることなどできません。
私たち消費者にとってペイオフの時代とは、一言でいえば「お金を預け
るところを預金者が選んでいく」時代であるということ。しかも相手の
勧めるままにではなく、賢明に、自主的に選んでいくスタイルを身につ
ける必要があるといえます。
また、ペイオフ解禁のリスクも考慮すべきです。現在、そのリスクを回
避・分散させるために注目されているのが、個人の外貨建ての債券投資。
高金利通貨へのシフトが進んでいます。しかしこれとて、賢明に、自主
的に選んでいくことが大切という意味では預金と同じです。
日銀がまとめた2004年の国際収支動向によると、昨年の個人向け外債の
販売別シェアはオーストラリアドルが前年比7%増の53%となり、ついで
NZ(ニュージーランド)ドルが16%増の20%でした。
昨年販売された外債の通貨別シェアでは、金利水準が高い両通貨の合計
が全体の7割を超え、国内の超低金利やペイオフ解禁をにらみ、一定のリ
スクをとったとしても高い利回りを確保しようという個人の動きが鮮明
になっています。
日本人の個人金融資産の動きをみていると、日本人もリスクの高い動き
を選択するようになったな、と思います。たしかにこれら両通貨は金利
が良く、特に10年20年という長いスパンでみれば金利の良いところに置
いておくのは悪いことではない。が、こと外貨となれば「為替」の存在
も意識しておく必要があります。
私はやはりベースとなるのはドルとユーロで、若干余裕のある人がその
うち何パーセントかを豪ドルなどにシフトする、というパターンが基本
となるのではと考える。
日々の為替の変動を訳知り顔で解説している人がごくたまにいますが、
その内容に関しては、甚だ疑問を感じるところです。
この点については拙著『新資本論』にも詳細を書きましたが、そもそも
為替というものは理屈があって上下するものではないので、解説などで
き得ないのです。
予測できないがゆえ、前述したパターンのようにリスクを考え「分散」
という選択肢を考慮すべきであると思います。
また、日本では金融機関に行くとすぐ豪ドル!と推奨してきます。つま
り「BUY」を促しているわけで、逆に「SELL」を言うことはほとんどあり
ません。
売り時を推奨してくれないので「金利で得をしても為替で損をする」と
いう現象がそこかしこで起こっているのが現在の状況です。
買うとなったら「売る」タイミングも購入者自ら見計らっておくべきで
あり、ペイオフ解禁後の預金についても同様に、消費者自身がアンテナ
を張っていなければなりません。
●企業業績が回復しても株価が上がらない、日本経済の矛盾点●
預金、外債以外にもお金の持っていきどころはあります。たとえば株式
投資。昨今では個人による株式投資も盛んになっているようですが、現
在の国内株式市場はもみ合い状態が続いています。
注目すべきは、日本企業の収益は明らかに向上しているにもかかわらず、
もみ合いが続いている点です。
主要企業300社の経常利益の推移をみると、3月期も22兆円の利益がでて
います。ふつう企業業績がこれだけ回復してきたら株価は連動して回復
するはずなのですが、2年前くらいから日経平均株価が12000円以上行か
ず、その手前で線グラフが張り付いてしまっています。
これは「グラスシーリング」という状態です。つまり「見えないガラス
の天井」があって、これより上に行くのを妨げているような状況なので
す。
さまざまな報道で企業業績の回復をリポートしていますが、なぜ株価は
回復しないのかを同時に述べるべきでしょう。
大きな理由として国債との兼ね合いがあります。株式市場が飛躍して1万
5千円、2万円となれば、国債のほうに流れているお金がどんどん株式市
場に流れてくることになります。そうなると何が起こるかといえば、「
国債の暴落」です。
それゆえ、国債への依存度の高い日本政府としても株式市場を本格的に
回復させることはできません。これが、日本経済が抱えている抜本的な
矛盾点です。
企業の業績が回復しても株価はついてこない。逆に、業績がたいしたこ
とがない場合でも突き抜けて上昇することもある。企業業績を正確に反
映していない株式市場の矛盾点が露呈しないよう、私たちの税金を使っ
たり、金利を払わない手段を取ったり、いろいろな細工がこれまで施さ
れてきました。
つまり日本の経済は、ガラス細工さながらです。ガラス細工に立脚して
いる以上、先に述べた「賢明かつ自主的に 物事を選んでいく」能力は、
今後私たちにとってさらに必要不可欠になっていくでしょう。
-以上-
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~出典~ ボーダレス・ワールド プレジデント社
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