欧米での企業ブログの現状
今、世界のブロガーは400万人を超え、そのうちアメリカが250万と言われている。この中で、企業ブログの数について具体的な数が明示されている調査はないが、もともと起業精神の強い国であるアメリカでは、小規模ビジネスも含め企業ブログが活発である。特にコンサルティング企業やコンサルタントには、自分達の知識を見せるためのメディアとして盛んに使われている。
これから数回にわたって、いくつかの例や企業ブログの専門家の意見を含めて、欧米での企業ブログの現状を見てみたいと思う。今回は、企業ブログのマーケティング上のメリットについて簡単にまとめてみたい。検索エンジンの上位に上がりやすいなど、ブログの特徴は以前に述べたので、それらは企業ブログにも当てはまるということは理解していただきたい。
Consumer-Generated Media(CGM)について見たように、一部の消費者が発するメッセージが他の消費者に大きな影響を与えたり、コミュニティサイトやソーシャルネットワーク、ブログ、検索エンジンを使ってメッセージを幅広い人たちに伝えることが可能となった。
この環境は、企業にとっては、チャンスでもあり危機でもある。これらのオンラインツールはメッセージを流したり、消費者の意見を集めたり、消費者同士の対話を促して、企業のサポーターと呼べるような消費者グループを作ることができる。そしてその反対に、何か企業が問題を起こすと一消費者への対応が悪いことでも、すぐに広がってしまうというリスクを抱えざるを得ない。
そのリスクを抑えるための一つのツールが企業ブログだと思う。企業コミュニケーションにおいて、何らかの事件が起こったときに、噂が立つまでに企業として自分達が理解している事実関係を公開するというスピードが何よりも重要になる。
ウェブを通して企業広報ができるようになったとはいえ、それでも、企業トップと話し合った内容をPR担当者が書面にして、それをウェブマスターや外部のウェブ制作会社にメールして・・・という時間差が、その企業にとって致命的になることもありうる。特に、企業の外にいる、中傷や噂を立てる消費者や競合は、同じスピードで情報を発信してるのである。
企業ブログの二つ目のメリットは、今まで表情や特徴が不明瞭だった企業という存在に、人格、あるいは顔を与えるところにある。広告にしてもPRにしても、企業から発せられるメッセージには、個性とか人格とか性格といったものがうまくそぎ落とされた言葉が使われているのが一般的だ。ブログの特徴は(少なくとも英語でのブログの特徴は)、企業ブログであっても、これがもっと個人の口から出てくるような話し言葉や個性のある語り口で語られている。消費者と同じ目線で対話ができるようになると言っても良い。今までのような構えた姿勢ではなく、対話をするという姿勢が、対話を促す環境を作り出している。
そして三つ目のメリットは消費者との長期的な関係の確立が可能なことである。これは今まで、メルマガ等で行われていることではあるが、昨今のスパムの問題でメルマガに対して否定的な感じが生まれつつある。特に若者の間では、メールを使ったコミュニケーションが、インスタントメッセンジャーやブログに変わりつつある。企業としてオプトイン型のコミュニケーションをする上で、ブログの重要度が高まっているのである。
最後に、一消費者が作った、あるいはその消費者と企業、消費者同士の対話で作られたコンテンツが、他の消費者の役に立つといった、ナレッジベース的な使い方ができることだ。これは今までもユーザーフォーラムといった形で行われていたのだが、サポート以外にはあまり使われていない。ブランデッドコミュニティを作るという企画は数々あったが、成功している例はあまり無いようである。ブログは、ゆるやかなブランデッドコミュニティを作る可能性を秘めている。
以上、企業ブログのメリットを簡単に述べたが、実際には例を見ながら話をした方が理解しやすいと思う。来週以降、社員ブログやブログを使ったイベントプロモーションなどのケーススタディを行いたいと思う。
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欧米での企業ブログの現状を調べるため、今回は米DoubleClickのリサーチマネージャーであり、同時に企業ブログの最新事例を紹介する「Business Blog Consulting」の代表でブログコンサルタントでもある、Rick Bruner氏に話を聞いた。Bruner氏は、10年間にわたってインターネット・マーケティングにかかわっている。最近では、年に3回、3000人以上が参加するネットマーケティングのイベント「Ad Tech」で、彼が中心となってイベントのためのブログを開始している。
Bruner氏のブログは、アメリカでのブログの最新例を見る上でとても参考になるサイトである。筆者も、いつもチェックをしている。これから、複数の寄稿者でこのブログをアップデートしていくということなので、事例が増えることと思う。さらなる発展を期待したい。
織田)
なぜ、ビジネスブログが企業にとって重要なのか。企業サイトを立ち上げ、メルマガなどを出している企業も多いが、それでも企業ブログは必要なのだろうか。
Bruner)
どこの国でも起こっていることではないかと思いますが、アメリカの企業では、ここ数年、様々なスキャンダルがありました。消費者サイドには、企業が言うことが信頼できない、という風潮があります。PRや広告で伝えられていることは、うそに過ぎず、社員が内情を暴露する、というようなことが続いていました。
そのような状況の中で、ブログには、社員1人か数人が個人のレベルで自分達の顧客層や関係者に話ができるという強みがあります。マイクロソフトには、周りを容赦なく叩き潰す独占企業というイメージがありますが、Robert Scoble氏が「Scobleizer」というブログをやっているお陰で、マイクロソフトもRobertのような「個人」、あるいは「人々」によって運営されていることを改めて感じられます。
また、社員が消費者との接点を多面的に持つことは、会社の外の価値観を中に持ち込むことにつながり、現在のように市場環境の変化が激しい時代には重要なことです。
その他にも、定期的に顧客や関係者との接点ができるとか、検索エンジンに強いというメリットもありますが、あくまで、企業サイト、メルマガに加えた顧客との新たな接点という視点で考えるべきだと思います。
織田)
消費者からのコメントを公開するべきかどうかという議論がありますが、企業に対してどのようにアドバイスしているのか。
Bruner)
これは、管理する側がどれだけ対応が速いかによるので、一概に言うのは難しいですが、基本的には公開すべきではないと思っています。すぐに削除できなくはないですしツールなどもできてきていますが、企業にとってはリスクが大きすぎるような気がします。コメントスパムなどもありますし。
織田)
企業ブログをどのように分類されるのか。
Bruner)
5つの主なカテゴリーを考えている。
1.業界をリードする知恵・知識を示す Thought Leadership blogs
テクノロジー会社、コンサルタント、調査会社などがブログを使用する理由はこれである。Bruner氏はSunのPresident兼COOのJonathan Schwartzのブログを最善の例としてあげている。
2.カスタマーサポートBlog
テクノロジー会社で多数使われているブログ。QuickBooks、Googleなどが例としてあげられた。
3.PR Blog
CEOブログを含めて、多くの企業がここでブログを始めていることが多い。メディアや記者に対してという切り口で情報を再編集しなければ効果は上がらないとBruner氏は考えている。
4.Adverblogs
広告・プロモーションを目的とされたブログ。NikeのArt of Speedや乳製品メーカーのStonyfield Farmが例として挙げられた。
5.企業内ナレッジベース
Bruner氏の専門外ということではあるが、企業内での知識共有やコラボレーションに使われる例が増えている。
織田)
企業ブログの近未来をどのように予想するか。
Bruner)
今までは、テクノロジー会社やコンサルタントによる企業ブログが主だったが、それがStonyfieldや旅行ガイドブックを出版しているFodorsなどのように、他の業種での使用が増えてきました。
これからますます業種が増え、また企業のサイトの一部として定着していくと思います。また技術面で言うと、ブログでまとまった情報をメルマガにして送り出したりするツールがこれから出てくるはずです。コンテンツマネジメントという面では、ブログツールはまだまだ改良の余地があります。
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前回は、欧米での企業ブログの現状を調べるため、米DoubleClickのリサーチマネージャーのRick Bruner氏に話を聞いた。今回は、ヨーロッパに目を向け、ヨーロッパでの企業ブログの現状に詳しい、Corporate Blogging BlogのFredrik Wacka氏に話を聞いた。Wacka氏はスウェーデンにて、企業や政府のサイトのコンテンツ戦略のコンサルティングを行っており、最近では企業ブログに関する依頼も多くなっているという。
織田)
ヨーロッパでのブログの状況はどうでしょう。
Wacka)
具体的な数字がこれといってないので感覚的な話にはなりますが、アメリカより多少遅れている程度という感じだと思います。ヨーロッパでも、フランスでは進んでいて、イギリスでは遅れているという風に国によって違いがあります。スウェーデンでは、国会議員のすべてにブログツールを与えるという法案がちょうど提出され、話題になっています。企業ブログについても、アメリカより多少遅れている程度だと思います。
織田)
面白いですね。さて、なぜ企業ブログが話題になっているのでしょう。
Wacka)
フィードだとか検索だとかメリットはたくさんありますが、私が最も重要だと思うことは、ブログが企業に対して新しいレベルのコミュニケーションを提供していることだと思います。顧客、社員、その他の企業にとって重要なグループ対して、個人的なレベルで形式ばらないコミュニケーションができることです。これは今までの企業コミュニケーションでは見られなかったことです。
例えば、企業サイトや企業のメルマガでは、元の原稿は企業の誰かが書いたとしても、それを中間管理職やマネージャーがチェックし、広報が編集し・・・、という感じで、最終的には誰が書いたか分からない同じトーンの従来の企業メッセージとなります。企業ブログは、この書き手の個人的な言葉と、個性という部分が重要なのだと思います。
また、企業ブログは消費者のニーズから生まれたものではないかとも思います。今までは企業はマス市場に向けて製品やサービスを提供してきましたが、それがたくさんのサブマーケットに取って代わられるという変化を私達は見てきました。消費者は、企業からマスの中の一人ではなく、個人として取り扱われたいと感じでおり、製品やサービスを企業から買うだけでなく、企業とリレーションを作りたいと思っています。ブログはこのニーズを満たすためのツールとしてピタッとはまったのだと思います。
織田)
マーケティング分野の企業ブログで、これは思われる例を挙げてみてもらえますか。
Wacka)
PRでは、NYのPR企業の副社長であるSteve Rubelの「Micro Persuasion」。彼はこのサイトを通して、かなりの顧客を得ています。プロモーションではドイツのアパレルメーカーのInscene Embassy。世界中からのファッショントレンドを特派員によるブログの形で流しています。カスタマーサポートではSAPのブログが優秀だと思います。
織田)
日本の企業経営者に向けて、企業ブログについてアドバイスがありませんでしょうか?
Wacka)
まず、ブログのメリットについて検討してみてください。私が考えるメリットは、顧客や業界関係者など重要なグループの人たちともっと近い関係を作る、あるいは、業界のリーダーとして自分たちのポジションを確立するといったことです。その答えが「Yes」なら、次に企業メッセージのコントロールを緩め、個々の社員に企業のブランドの代表になることを許す気があるかを自ら尋ねる必要があります。そして、その答えも「Yes」なら、企業ブログを始めるべきでしょう。
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企業の製品やサービスの細分化と、企業ブログというコミュニケーションの細分化をパラレルで見る視点が新しく感じられた。One to Oneコミュニケーションがオンラインコミュニケーションの究極の姿と言われ続けて久しい。One to Oneコミュニケーションの目的は、顧客との関係を築くことであり、今までと同じ企業コミュニケーションのトーンを使ったのでは、深い関係作りはできず目的は達成できない。企業ブログという従来の企業コミュニケーションを解体する作業の後で、One to Oneコミュニケーションが成り立つのであろうかと、考えさせられた。
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