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ブログメディア会社

ブログがメディアであることは当たり前の話で、日経BPをはじめ、CNET、NYタイムス紙など多数のメディア企業がブログを使っている。ただ、彼らはブログを自社のサイトの一部として使っているだけなので、ブログメディア企業とは呼びにくい。

インターネットが普及し始めたころに、Yahoo!やLycosなどのオンラインメディアが生まれてきたように、アメリカではブログのみを複数出版するメディア会社が出てきている。このようなメディア会社が出てくるということで、メディアとしてのブログの層の厚さや、進化の先が見えてくるのではないかと思う。そのブログ出版社から、代表的な会社である「Gawker Media」と「Weblogs Inc.」について書いてみたいと思う。

Nick Denton氏が率いるGawker Mediaは、NYベースのブログ出版社で、現在8つのブログとブログポータルを運営している。Denton氏は、イギリスの出身で、元ファイナンシャルタイムスなどでジャーナリストとして働いていた。シリコンバレーでIT業界を追いかけ始めたころから起業への熱が芽生え、何人かのパートナーとMoreoverというニュースアグリゲーションサービスを始めた。

だが、それとは別に、たまたま起業家と投資家の橋渡しをする機会を彼とパートナーが持ったため、それが後に世界80都市で行われるFirst Tuesdayというネットワーキングイベントのビジネスに成長した。そして、ネットバブル最高潮のころ、彼らはこのビジネスをイスラエルの会社へ売り、5000万ドル相当の株と現金を手にする。

その後、Denton氏はNYに移り、新しいメディア事業を考え始める。既存のオンラインメディアはあまりにも退屈ということから、ブログの可能性を考える。すでに個人レベルではブログが普及しつつあり、誰も編集したり、検閲することがないことから、大胆な意見が多いことがわかっていた。Denton氏は、ブログ読者の中心層であるネット・メディア慣れした若い男性層に合わせて企画を立ち上げた。

2002年8月にまずガジェット(PC/家電機器)のブログ「Gizmodo」を立ち上げ、同年12月にNYメディア業界ゴシップブログ「Gawker」、2003年11月に知的ポルノブログ「Fleshbot」、2004年1月にワシントンの政治ゴシップブログ「Wonkett」、5月にハリウッドゴシップブログ「Defamer」と次々と立ち上げていった。この10月には、カー情報ブログ「Jalopnik」、ゲームオタクのための「Kotaku」、面白いオンラインコンテンツを追いかける「Screenhead」の3つのブログをまとめて公開した。

この合間にも、ブログ広告キャンペーンとしてはおそらく初めてといえるショートフィルムとブログを組み合わせたNikeの「Art of Speed」(6月に20日間行われたキャンペーンで既に終了)を展開し、ブログポータルサービス「Kinja」を立ち上げている。

Gawkerのビジネスモデルは。ITバブル崩壊後のモデルとも言える徹底的なローコスト経営である。Gawkerは、基本的にオフィスはなく正社員もいない。各ブログの担当編集者は、Denton氏が様々なブログを読んでその書き手をスカウトした人たちだ。契約社員で月に1500ドルから2000ドルぐらいの給料でスタートし、1人でそのブログのコンテンツを運営するかわりに、ブログコンテンツの編集権は編集者が握るという表現の自由度が保障されている。

ただ、この給料の安さから、初代のGizmodoやGawkerの編集者は、すでに競合や他のメディア会社に移っている。また、基本的に他のメディアの情報についての解説やコメントを載せているだけなので、情報料もタダである。

Denton氏はインタビューで「GoogleのAdSenseのお陰で、広告セールスの部署をつくることなく、ブログ出版の費用をかなりカバーできるので、他のオンラインメディア事業に比べると始めやすい」と答えている。

米ビジネス誌のBusiness 2.0の調べによると、今年6月の時点で(前述の3つのブログが立ち上がる前)、各ブログはすでに3000から6000ドルの収入を毎月上げている。メディア会社として考えると大きな規模ではないが、それ以降のトラフィックも増えているであろうし、ブログの数も増えていることから、このビジネスモデルを続けていける限り収益は増えていくように思える。

また、このようなブログのネットワークでは相互にプロモーションすることができるので、Nikeのようにカスタムブログを立ち上げる場合でも、トラフィックを簡単に誘導できるというメリットもある。

実際、新たに立ち上げたカー情報ブログJalopnikでは、Audiが専属スポンサーとして付いている。「NikeやAudiのような勇敢な広告主は、このブログというメディアを、オンライン広告やクリック保障型広告のメディアという風ではなく、ブランディングのメディアとして考えている」とDenton氏はまとめている。

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ニューヨーク(NY)生まれのJason Calacanis氏は、米Sonyでプログラマとしてスタートし、その後、レストラン事業家のBarry Wine氏とバーチャルチャット環境を開発し、それを1995年にAOLに売った。そして、それを契機にベンチャーキャピタル企業へのコンサルタントに転進した。その後、NYシリコンアレーのベンチャー企業を追いかける情報誌Silicon Alley Reporterを発刊し、4年で年商1200万ドル(約13億円)を稼ぐメディアに成長させる。

そしてITバブルがはじけ、次々とIT関係のメディアが廃刊になった2001年、Silicon Alley Reporterを広告サポートモデルからデータベース購読モデルのVenture Reporterに衣替えした。さらに、2003年春にはベンチャー・データベース会社に買われ、さらにその後、Dow Jones社に買われることになる。

Calacanis氏は、今もDow Jonesのコンサルティングをしている。そして2003年の秋に、Weblogs, Inc.を立ち上げた。Weblogs, Inc.は、Gawker Mediaにかなり遅れてスタートしたが、Gawkerのいわば直感的なDenton氏と異なり、Calacanis氏はWeblogs, Inc.を企業として成立させるためにいくつかのミッションと企業哲学をスタート時に提示した。

■Businss to Businessメディアとしてのミッション
1)ニュースの概要、サマリーを伝える
2)業界内のトピックに合わせてニュースを検索したりソートできるようにする
3)ユーザーが参加できる場を作る
4)業界関係者の参加により、報道の公正さと信憑性を高める

■メディア企業としての哲学

1)既存の報道機関は機能していない
 General Electricが親会社であるCNBCがGeneral Electricを批判できるか、というビジネス・オーナーシップと報道の自由についての疑問。

2)ジャーナリストは経済的自立を求めている
 ITバブル崩壊後、企業で働いて首を切られるより、自分で何かを始めた方がよいとジャーナリストは気が付きはじめている。

3)所有よりもパートナーシップ
 Weblogs, Inc.は、ブロガーとの折半で運営するブログを所有し、ブロガーは自由にWeblogsのネットワークから独立することができる。

そして2003年10月、「The Weblogs, Inc. Weblog」、「Jason Calacanis's Weblog」、「The Social Software Weblog」の3つを立ち上げ、現在では消費者向け(Autoblog、Blogging Babyなど)、テクノロジー(CSS、Grid Computing)、ワイヤレス(The WiMax Weblog、RFID)、ビデオゲーム(Playstation3、Xbox2)、メディア&エンターテイメント(Independent Film、Nanopublishing)、ビジネス(Outsourcing)、ライフサイエンス(Telemedic)、個人ブログ(NBAチームDallas Marveriksオーナー、起業家のMark Cuban)、イベント(Blogging E3)など、10カテゴリーで62のブログを展開している。

Calacanis氏はインタビューで、「2004年中に100まで伸ばしたい。400のトピックをすでに考えている」と答えている。リストを見るとわかるように、テクノロジー関連のトピックを細かく分け、それぞれの分野でブログを立ち上げていくというのが戦略である。

彼らのビジネスモデルはGawkerと違い、ブロガーとブログの利益を50対50で分けるというものだ。Weblogs, Inc.は、ブログプラットフォームの構築と運営、広告・スポンサーシップの販売を担当し、ブロガーは記事の調査、書くことに集中できる。

Weblogs, Inc.は、広告の販売経費として上限20%をコミッションとして広告セールスに支払うものの、広告がオンラインで申し込まれた場合は2〜4%のクレジットカード経費のみを全体経費とし、残りを50対50で分ける。広告収入は、Googleのアドワードとスポンサーシップ。最近では、時間限定で商品を販売するショッピングチャネルと同様のビジネスモデルのEコマースサイト「Woot!」がスポンサーをしている。

2回にわたってブログメディア企業について簡単に説明した。どちらも低コストのオペレーションでブロガー1人から数人まででブログを運営し、読者のコメントを積極的に受け入れるところに、今までのメディア企業との違いがある。

Weblogs, Inc.のCalacanis氏が「ブログメディアの読者は一気に伸びる」と述べ、次々とブログを立ち上げているのに対して、GawkerのDenton氏は「Jason Calacanisは90年代バブルをまだ夢見ている」と慎重だ。いずれにせよ、個人メディアから始まったブログは、ビジネスとして新たな段階に達しており、2人のブログメディアの運営形態が、今までのメディア企業のあり方を変えていくのは間違いのないことのように思える。

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