PRブロッガSteve Rubel氏に聞く
Virgin Mobile、全米広告主協会などの優良クライアントを持つPRエージェンシーCooperKatz & Co.の副社長であり、自らもPRブログのバイブルとされているMicro PersuasionのブロガーであるSteve Rubel氏に話を聞く。同氏は、ジャーナリストとしてキャリアをスタートさせ、PR業界に入って15年になる。CooperKatzに入ってから3年半になり、クライアントのPR戦略を担当している。
織田)
ブログが生まれる前と後でPRの役割は変わったでしょうか。
Rubel)
PRの定義は、様々なメディアを通して一般大衆に対して影響を与え、何らかの行動、態度変容を促すというもので、これはブログ前後で変わりはないと思います。ですが、PRプロセスに対するブログの大きな影響は、「情報コントロール」にあると思います。
以前は、企業は少なくともメディアが発する自分達のメッセージをある程度コントロールすることができました。ブログはこの状況を完全に変えてしまいました。ブログは悪く言えば、何でもありの世界でブロガーは好きなことを書くことができ、それをPR担当者はコントロールできません。昔のPRモデルに慣れているPR担当者は、この現状を無理やり受け入れなければならない辛い立場にあると思います。
織田)
企業内文化で、PR部は情報を押しつける文化があり、カスタマーサポート部は消費者と対話する文化があることから、ブログはカスタマーサポート部から始めるべきという議論がありますが、どのように考えられますか?
Rubel)
大いに同意しますが、もっとその先があると思います。
過去100年の通信技術革新は消費者から生産者を遠ざけるものばかりです。昔は、近所のパン屋とか肉屋のJoeとか、商品を生産している個人をお客さんは知っていました。ですが、そこに電話、ファックス、Eメール、インターネットが生まれ、企業は巨大化して、企業は見えるものの、誰が本当にものを作っているのかが見えない世界になりました。
例えばデルタ航空に電話するとインドの会社が応対し、デルタ航空自体にすら連絡が取れません(笑)。
ブログはこの状況を大きく変えつつあります。例えば、マイクロソフトは大きな会社ですが、次世代のIEチームのブログを読むことができ、彼らが製品のことを気にしながら、あるいはユーザーのことを気にしながら、IEを作っている様子が良くわかります。彼らの製品やテクノロジーに対する情熱が伝わってきます。
つまり、いきなりここに「社員の情熱を伝えるメディア」が登場したことになり、PRのやり方が大きく変わっています。「人間化した企業の時代(Era of Humanized Business)」がやってきたと言えるでしょう。
質問の答えにもどるとPRの役割はこのようなカスタマーサポート、生産部の声を出していくための戦略を立てることに変わっていくと思います。
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PR戦略家らしく、「人間化した企業の時代」、「社員の情熱を伝えるメディア」など覚えやすいキーワードが次々と出てくるところがPRブログのカリスマと呼ばれる所以だと思う。企業ブログについての多くのコメントが、ブログは「企業に個人の顔を持たせる」という言い方をするが、正直なところ今まで、それにどれだけ意味があるかをきちんと理解できていなかった。Rubel氏の企業コミュニケーションの歴史的背景のアナロジーを聞いて、企業ブログのPRチャネルとしてのポジションが多少なりとも理解できたように思う。
引き続きインタビュー後半ではRubel氏に、ブロガーとPRの関係、参加型ジャーナリズムの影響などについての意見を聞く。
織田)
参加型ジャーナリズムとかCGM(Consumer-Generated Media:消費者作成メディア)が話題ですが、PRへの影響についてどう思いますか。
Rubel)
大きな影響があります。おそらくブログの影響よりも大きいのではないでしょうか。
今、Jeff JarvisがAdvance.netでやっていることを見てみましょう。Advance.netは30〜35ほどの地方紙サイトをまとめており、さらにその読者ブロガーを組織化しています。その新聞社のサイトに行くと、プロの記者の書いた記事とアマチュアブロガー記者が混在したサイトになっています。プロの記者は、近所の学校のPTA会議の模様の記事を書く時間がないので、ブロガー記者が取材をすることになります。
さて、このような環境でPR担当者のあなたは、アマチュア記者に自分の商品やサービスを取り上げてもらうにはどうしたらいいでしょう。わからないですよね。まだ、PRにはアマチュア記者をターゲットにした、これなら確実という方法論が確立していませんから。
いずれにせよ、ジャーナリストをプロとアマチュアの2つの層として定義して、それぞれへのアプローチを考えるという戦略が、これから確立していくのだと思います。そして、後者もメディアとして、大きな影響力があるという前提でメディア戦略を考えなければなりません。
マーケターやPR担当の中には、「私はブログを全然読まないし、なぜブログが重要なのかわからない」という人たちがいます。でも、マスメディアは常にブログを読んでますし、記事のネタがブログ界に転がっていて、ニュースがここから始まることを知っています。私にとっては、それだけでブログの重要さの証明だと思います。
織田)
シアトル近辺のIT企業のPR担当者に知り合いは多いのですが、彼らは今までのメディアへの対応がブロガーに使えないことに戸惑っています。どのように対応するべきなのでしょう。
Rubel)
ブロガーへの対応では一般的に次のような方法を薦めています。
1)他の行動を起こす前に、まずはブログ界で何を言われているかをよく聞く。PubSub、Technorati、Feedsterは優れたツールです。それらを使って、自社のことについてブログ界で何か語られているか、誰が影響力を持っているか、誰と誰がリンクされているか、を調べます。
2)次は、その中の影響力のあるブロガーたちへ連絡を取ります。あるいはコメントをブログに書きます。このブロガー達と知り合いになりましょう。彼らはジャーナリストではありません。決して、彼らを影響力を使うための手段として扱わないことです。この人たちのことを本当にひとりの人間として気にかけるべきだと思います。プレスリリースなどは送らないこと。必要だと思えば、CEOと直接話をさせるなど、企業の語り口ではなく、個人としてつながれる方法を考えましょう。
3)最後のステップは、このブロガーとの関係を確立した上で、ブログをスタートします。ただし、企業の看板をかぶったブログではなく、社員によるブログです。ここでも、企業の語り口はブロガーに対して通じません。個人が通じるのです。
織田)
最後にPRブログの近未来には何か起こるでしょう。
Rubel)
たくさんの企業の役員会で企業ブログを始めるという決定がなされ、圧力がPR担当者にかかり、わけもわからないままブログを始め、いくつかは成功するでしょうが、先週あった某日本の自動車メーカーのショートフィルム・ブログのように、立ち上げから酷い評価をブログ界で得て、数日でサイトを閉じるというような大失敗も起こるでしょう。そして、我々は後にNYタイムス紙などで記事を読むことになります(笑)。反面教師という感じで。
ブログは技術的には簡単ですから誰でもできると思います。ですが、取り扱いやエチケットなどを知らないと大きな痛手を受けることになります。
もう一つは、2004年がブログの年であったように、2005年はRSSの年になります。RSSがメジャーになっていくでしょう。
同氏の話は、ブロガーとの対応に関して、すでにある程度の方法論があるところに、自らブログを立ち上げて、日々ブログ界を見ているPRエージェントらしい。ちょうど同じ時期に、サンノゼマーキュリーニュースのDan Gillmorのブログで、PR会社からのブロガーを管理する方法を提供しますというメールを受け取ったGillmorが「ブロガーは管理するものではなく、対話をする相手だ」というコメントを出している。このメールを読むと、2つのPR会社のブロガーに対する姿勢の違いの大きさに驚く。Gillmorの話しているPR会社がNYタイムス紙に取り上げられないことを祈るばかりである。