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メラビアンの法則という都市伝説

都市伝説の一つに「メラビアンの法則」がある。情報伝達手段としての視覚、聴覚、言語(言葉)それぞれのインパクトの比率が、55−38−7であるという実験結果である。アメリカの心理学者Albert Mehrabianが報告した。Vision(Visual), Voice(Vocal), Verbalの頭文字をとって「3Vの法則」という人もいる。巷では、「人は見た目が9割」という本の影響もあって、いやそれ以前から、日本のビジネス界では誤解されて伝わっている。


昨年、「国家の品格」がベストセラーになった。ある本屋では第二位が「人は見た目が9割」という本であった。冒頭で、このメラビアンの法則を引用している。まったくの出鱈目である。メラビアン博士も「誤解されている。言葉の情報伝達力が7%なんて馬鹿なことはありえない。」と否定していることが、どうして日本ではまことしやかに広がったのだろう。

「人は見た目が9割」という分かりやすい、悪く言えば「売らんかな」の商業主義に毒された題名が、まさしく「見た目が9割」でベストセラーの要因になったのかも知れない。しかし、ウソを喧伝しては困りますね。著者や読んだ人は、Mehrabianがどんな心理学上の実験をして、何を言いたかったのかを原文で確かめたのでしょうか?

大体からして、その実験報告は30年以上も前の話である。私もよくは覚えていないが、視覚、聴覚、言語で矛盾した情報が与えられたとき、いったいどれを優先して受け止め、話し手の感情や態度を判断すのかを実験しただけである。そっぽを向きながら、「好きです」なんて言っても、相手にその感情が伝わるわけがない。そっぷを向いていることを視覚で受け止めて、9割方を判断するでしょう。言葉は意味がない。そういうことですね。

このことを知っている人もたくさんいます。その証拠に、アマゾンの読者書評では、「人は見た目が9割」は酷評されています。冒頭からウソを言っていたのでは信用されないのも仕方がない。「人は見かけよりも中身が大切」、「人を見かけだけで判断してはいけない」・・・と教わったのではないか?これを否定する学説があるとは寡聞にして知らない。少なくともMehrabian博士は否定していない。

英語が良く分からない日本のビジネスマンが英語圏の人と会議をして、言葉があまり通じなくても、視覚と聴覚(声の調子、高低など)だけで9割理解できるんですか?ハリウッド映画を原語で見て理解できるんですか?字幕があるとどうして英語国民とおなじように笑えたりするんですか?

心理学上の実験は、あくまでも話し手の感情や態度の判断に限っている。日本では「感性工学」なんていっている人もいるようです。たとえば、「好き」という言葉には、いろんな意味がある。好きな相手の呼び方も、honey, baby, dear, youといろいろある。人はそういう言葉で「好きの度合い」を判断しているのではなく、相手のまなざし、声音、身振りなどで判断する、と言うのは正しい。言葉の与えるインパクトは7%だったというのが実験結果である。

これが日本のビジネス界のひとたちは、身なり、言葉使いが大切だ、プレゼンの仕方、パワポでの資料作成・・・などと強調する。それも大事だが、人を人たらしめているコトバの伝達力を軽視してはいけない。そしてコトバを文書化することで、その話し手の情報伝達力は何倍にもなることを忘れてはいけない。もっと言えば、書き言葉になってはじめて、より多くの人たちに情報が伝達され、知識となって共有され、それがまた知恵を生む牽引力にもなる。

とくに昨今の「コンサルタント」という呼ばれる人たちは、パワポ依存症候群になって、書くことがおろそかになっていないだろうか?

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